「公務員は潰しが効かない」「民間では通用しない」。
この手の言葉は、公務員自身の口から出てくることも多いように思います。
しかし、実際に何がどう通用しないのかを具体的に説明できる人は、あまりいません。
※本サイトでいう「公務員」には、独立行政法人・国立大学法人・日本銀行・日本年金機構等の職員(いわゆる準公務員)も含みます。
副業・兼業規定が国家公務員法・地方公務員法に準拠、または類似している職種を主な対象としています。
この記事の立場ははっきりしています。
市場価値が低いのではなく、経験が民間の言葉に翻訳されていないというケースが相当あるということです。
翻訳の手順を4段階に分けて説明します。
この記事の結論
📌 結論を先に
- 「潰しが効かない」の正体は、多くの場合言語化の不足であって能力の不足ではない
- 業務名で語ると価値が消える。何を判断し、何を動かしたかで語る
- 翻訳は4段階(棚卸し → 分解 → 言い換え → 数値化)で進む
- 本当に足りないものが見つかった場合も、在職中に埋められるものが多い
なぜ「通用しない」と感じるのか
理由は主に3つあると考えています。
- 比較する機会がない。転職市場に出たことがなければ、自分の経験がどう評価されるかを知る機会がない
- 成果が個人に紐づかない。行政の仕事は組織として動くため、「自分が何をした」という形で記録が残りにくい
- 業務名が組織の内側でしか通じない。「例規審査」「復命」「専決」といった言葉は、外では意味が伝わらない
3つとも、能力の問題ではありません。
環境の問題であり、しかも今の職場にいながら手を打てる種類のものです。
補足しておくと、「潰しが効かない」という言葉自体が、かなり大雑把な表現です。
潰しが効かないのは職種であって人ではない、という場合もあれば、その逆もあります。
重要なのは、自分の場合はどちらなのかを確かめないままこの言葉を受け入れてしまうことです。
確かめる方法があるのに確かめないでいると、根拠のない自己評価が、そのまま行動の制約になります。
業務名を、外に通じる言葉へ
盛るのではなく、やったことを言い直すだけ
窓口対応
制度を知らない相手に、限られた時間で要点を伝え、手続きを完了させる
この翻訳を4段階に分けて進める。
段階1|棚卸し:やったことを全部書き出す
最初の作業は、評価を一切せずに書き出すことです。
「これは大したことない」という判断を入れると、たいてい価値のあるものから消えていきます。
書き出す単位は「案件」です。
年度ごとに、担当した案件を並べます。
- 何の案件か(相手、規模、期間)
- 自分がどの部分を担当したか
- 関わった人数と、そのうち他部署・外部の人が何人か
- うまくいかなかった点と、その対処
4つ目を入れるのがコツです。
うまくいった話だけを並べると、どの職種の人が書いても似た文章になります。
つまずきとその対処には、その人固有の判断が現れます。
段階2|分解:業務名を、行為に割る
次に、書き出した業務名を「どういう行為をしたか」に割ります。
ここが翻訳の核心です。
例を挙げます。
| 業務名(内向き) | 行為に割ったもの |
|---|---|
| 窓口対応 | 制度を知らない相手に、限られた時間で要点を伝え、手続きを完了させる |
| 予算の取りまとめ | 複数部署の要望を集め、制約条件の中で優先順位をつけ、期限までに合意を作る |
| 例規の審査 | 上位の規定との矛盾を洗い出し、修正案を根拠つきで提示する |
| 苦情処理 | 感情的な状態の相手から事実を切り出し、対応可能な範囲を明示して合意する |
右の列は、どれも業種を問わず通じる表現になっています。
そして重要なのは、何も盛っていないという点です。
実際にやっていたことを、外の言葉で言い直しただけです。
この作業をやってみると、自分の仕事が思っていたより複雑だったことに気づく人が多いはずです。
毎日やっていることは、当人にとっては単純作業に見えます。
しかし手順に割って書き出すと、判断が何段階も入っていることが分かります。
その判断こそが、外から見たときの価値です。
段階3|言い換え:主語を自分にする
行政の文書は、主語を組織にする書き方が身についています。
「〇〇課において対応した」という形です。
これを個人の主語に戻します。
ここで多くの人が引っかかるのが、「自分ひとりでやったわけではないのに、そう書いていいのか」という点です。
書いて構いません。
ただし自分が担当した範囲を明示することが条件です。
たとえば「3課にまたがる案件で、他課との調整と資料作成を担当し、当初案から2回の修正を経て合意に至った」という書き方であれば、誇張にはなりません。
採用側が知りたいのも、規模の大きさより「この人はどの範囲を任せられるか」だからです。
もう一つ、避けたほうがよい書き方があります。
役職名や部署名だけを並べる書き方です。
「〇〇課主査」と書いても、外の人にはその役割の重さが分かりません。
肩書きではなく、その立場で何を決められたかを書くほうが伝わります。
段階4|数値化:規模と期間を添える
最後に数字を足します。
行政の仕事は数字を添えやすいのが利点です。
- 扱った予算の規模
- 関わった部署・機関の数
- 対応した件数、相談件数、処理件数
- 案件の期間(何か月かけたか)
- 関係者の人数
成果を「増えた・減った」で示しにくい仕事でも、規模と期間を添えるだけで、読み手はどれくらいの仕事だったかを想像できるようになります。
注意点として、公にできない数字は書かないこと。
職務上知り得た情報の扱いには守秘義務があります。
公表資料に出ている範囲の数字に留めれば問題ありません。
翻訳の質を上げる、たった一つの確認
できあがった文章の質を確かめる方法があります。
公務員ではない知り合いに読んでもらい、「この人は何ができる人だと思うか」を一言で言ってもらうことです。
狙った答えが返ってくれば翻訳は成功しています。
「よく分からないけれど真面目そう」という感想しか出てこないなら、まだ業務名の羅列になっている可能性が高い。
読み手の言葉で返ってくるかどうかが唯一の判定基準です。
身近に頼める人がいない場合は、時間を空けて自分で読み返す方法もあります。
書いた直後は自分の記憶が補完してしまうので、1週間ほど置いてから、前提知識のない読者のつもりで読む。
それでも意味が通れば、たいてい他人にも通じます。
✏️ 筆者から一言
外の人に自分の経歴を説明する必要が生じて、初めて気づいたことがあります。
役に立っていたのは捜査そのものの技術ではなく、事実と推測を分けて記録する習慣と、感情的な相手から事実を聞き出す進め方でした。
在職中は、これらが外で通用する能力だとは思っていませんでした。
価値に気づいたのは、翻訳してみたあとです。
翻訳しても足りないものが見つかったら
4段階をやってみて、「やはり足りない」と分かることもあります。
それはそれで大きな収穫です。
何が足りないかが分かれば、埋められるからです。
| よく出てくる不足 | 在職中にできる対策 |
|---|---|
| 数字を扱う経験が薄い | 今の担当業務の実績を自分で集計してみる |
| 外部との折衝経験が少ない | 他部署や外部機関との窓口を引き受ける |
| デジタル関連の経験がない | 所属のルールの範囲で業務改善の提案をしてみる |
| 専門分野がない | 資格の勉強を、業務に関係する分野から始める |
どれも辞表を出さずにできることです。
学ぶ対象の選び方はこれからの公務員に必要なスキルにまとめています。
なお、不足が見つかったからといって、それを全部埋めてから動く必要はありません。
採用する側も、すべての要件を満たす人を探しているわけではないからです。
足りない項目のうち、どれが致命的でどれが後から埋まるものかを見分けられれば十分です。
市場価値を「測る」ためにできること
翻訳ができたら、実際に反応を見てみる方法があります。
求人票を読んで、要件と自分の棚卸しを突き合わせる。
転職サイトに職務経歴を登録して、どういう業種から反応があるかを見る。
どちらも在職中にできますし、応募しなければ何も起きません。
測るだけなら、辞める必要はない。
そして測ってみると、「思ったより評価される」場合と「特定の業種だけ強い」場合に分かれます。
どちらも有用な情報です。
まとめ|翻訳は在職中にできる
4段階を並べ直します。
- 棚卸し:評価を入れずに、案件を全部書き出す
- 分解:業務名を、外でも通じる行為に割る
- 言い換え:主語を自分にして、担当範囲を明示する
- 数値化:規模と期間を添える。公表可能な範囲で
この作業には費用がかかりません。
誰かに提出する必要もありません。
そして一度やっておけば、辞めるときにも、辞めずに庁内で異動を希望するときにも、そのまま使えます。
翻訳シート|案件を1つ選んで、4段階で書く
評価を入れずに書くのがコツです。うまくいかなかった点とその対処には、その人固有の判断が出ます。公表できない数字は書かないでください。
案件名。相手・規模・期間
① 棚卸し|自分が担当した部分と、関わった人数(他部署・外部は何人か)
② 分解|業務名を、外でも通じる行為に割ると
③ 言い換え|主語を自分にして、担当した範囲を明示すると
④ 数値化|規模と期間(公表資料に出ている範囲で)
うまくいかなかった点と、その対処
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