公開 2026年9月8日
実家の農業を継ぐことになった。
駐屯地の近くで、週末だけ知人の店を手伝いたい。
そんな相談を抱えた自衛官が、まず戸惑うのは調べ方です。
「公務員 副業」で検索しても、出てくるのは一般の国家公務員や地方公務員の話ばかり。
自衛官向けに絞ると、今度は防衛省が出している古い訓令のPDFしか見当たりません。
結論から言うと、自衛官(法律上は「隊員」と呼びます)の兼業は、一般の公務員が使う法律とは別の条文が根拠になっています。
条文の文字づらだけを読むと「防衛大臣本人に聞かなければいけない」ように見えます。
ところが実際には、身近な上司に相談できる仕組みが用意されています。
※本サイトでいう「公務員」には、独立行政法人・国立大学法人・日本銀行・日本年金機構等の職員(いわゆる準公務員)も含みます。
副業・兼業規定が国家公務員法・地方公務員法に準拠、または類似している職種を主な対象としています。
なぜ根拠になる法律が違うのか。
なぜ「防衛大臣」としか書いていない条文で、現場の上司が話を聞いてくれるのか。
この記事では、自衛隊法と自衛隊法施行規則を条文から追って確かめます。
⚠️ 先にお断りしておきます
この記事が扱うのは、現役の隊員(自衛官と防衛省の事務官等)が行う一般的な兼業の承認の仕組みです。
予備自衛官・即応予備自衛官が兼業する場合は、この記事とは別の法律(予備自衛官等兼業特例法)が対象になります。
詳しくは記事11で扱っています。
また、実際に承認の権限がどの役職まで委任されているかは、部隊・機関ごとの内部規程によります。
最終的には所属先の人事担当に確認してください。
この記事の結論
📌 結論を先に
- 自衛官(隊員)の兼業許可の根拠は自衛隊法62条・63条。一般の国家公務員が使う国家公務員法103条・104条ではない
- 62条は会社役員になる・自分で会社を興す場合、63条はそれ以外の有給の仕事や、営利以外の事業を行う場合が対象で、扱う中身が違う
- 63条は条文の文字づらだけ見ると防衛大臣本人の承認としか読めないが、自衛隊法施行規則が承認権限の一部を委任できると定めているため、実務では身近な上司にも相談できる
- 承認される基準は2つだけ。職務との利害関係がないこと、職務の遂行に支障がないこと
- 承認を得たあとも上官の職務命令が優先する。無許可で行えば懲戒処分の対象にもなり得る
そもそも自衛官には、一般の公務員と違う法律が使われる
公務員の副業を扱った記事(記事4)では、国の職員は国家公務員法103条・104条、自治体の職員は地方公務員法38条が根拠になる、と説明しました。
自衛官は、このどちらでもありません。
理由は、自衛官の身分の位置づけにあります。
国家公務員法は、国家公務員の職を「一般職」と「特別職」に分けています。
そして防衛省の職員は、この特別職の一つとして名前が挙がっています(国家公務員法2条3項16号)。
特別職には、国家公務員法の規定は原則として適用されません(同法2条5項)。
つまり自衛官は、さきほどの副業の許可の規定が、そもそも及ばない立場にいます。
その代わりに、自衛隊法という独自の法律が身分や服務の全体を定めています。
| 一般の国家公務員 | 自衛官(隊員) | |
|---|---|---|
| 国家公務員法上の位置づけ | 一般職 | 特別職(2条3項16号) |
| 兼業を定める法律 | 国家公務員法103条・104条 | 自衛隊法62条・63条 |
| 承認する人(条文上) | 各省各庁の長など | 防衛大臣(62条は委任先も可) |
なお、自衛隊法でいう「隊員」は、制服を着た自衛官だけを指す言葉ではありません。
防衛省で働く事務官や技官なども含む、防衛省の職員全体を指す言葉です。
政治家として任命される防衛大臣や副大臣などは除きます(自衛隊法2条5項)。
この記事で扱う兼業承認は、制服組・背広組を問わず、隊員であれば同じ条文が当てはまります。
62条「私企業からの隔離」と63条「他の職又は事業の関与制限」
自衛隊法には、兼業に関する条文が2つ並んでいます。
見出しの言葉づかいは硬いのですが、中身はシンプルです。
62条が対象にしているのは、会社などの役員や顧問になること、自分で会社や店を興すことです。
隊員は原則としてこれができません。
ただし例外があり、防衛省が定める基準に沿って、防衛大臣(またはその委任を受けた人)の承認を受ければ認められます。
63条が対象にしているのは、それ以外の、報酬をもらう仕事や、営利を目的としない事業です。
たとえば、知人の店を手伝ってアルバイト代をもらう、NPOの運営に関わる、といったケースがここに入ります。
こちらも防衛省令が定める基準に従って防衛大臣の承認が必要です。
| 62条(私企業からの隔離) | 63条(他の職又は事業の関与制限) | |
|---|---|---|
| 対象になる行為 | 会社等の役員・顧問になる、自ら営利企業を営む | 報酬を得て他の職に就く、営利以外の事業を行う |
| 典型例 | 自分で会社を作る、家業の会社の役員になる | アルバイト、NPOの運営、非常勤の講師 |
| 承認する人(条文の書き方) | 防衛大臣、またはその委任を受けた人 | 防衛大臣(委任の文字は条文に無い) |
| 承認の基準を定める先 | 防衛省令 | 防衛省令 |
表の3行目を見ると、一方には「委任を受けた者」という言葉が条文に書いてあるのに、もう一方には無いことに気づきます。
これだけを読むと、後者の承認だけは防衛大臣本人にしか頼めないように見えます。
ところが、実際にはそうなっていません。
その理由は、次の章で確かめます。
「防衛大臣」としか書いていないのに、なぜ身近な上司に相談できるのか
法律の条文だけを読むと、63条の承認は防衛大臣本人が出すように見えます。
しかし、自衛隊法にはもう1段、下位のルールがあります。
自衛隊法施行規則という、防衛省が定める規則です。
施行規則の64条には、こう書かれています。
「防衛大臣は、第六十条、第六十一条及び前条に規定する承認の権限の一部を、その指定する隊員に委任することができる」。
ここで言う「前条」とは、63条の手続きを指しています(施行規則の63条が、61条の基準をそこにもあてはめる形になっているためです)。
つまり、法律の本文に委任の文字が無くても、省令の側で承認権限を委任できると決まっているため、実務では防衛大臣以外の人でも承認できます。
では、実際に誰へ委任されているのか。
ここから先は、部隊や機関ごとの内部規程(訓令など)で決まる範囲です。
施行規則の65条も、承認を申請する手続きの詳しい中身は防衛大臣が別に定める、とだけ書いていて、その中身までは公開の法令に出てきません。
検索すると防衛省の古い訓令のPDFしか出てこないのは、このためです。
自分の所属先でどこまで委任されているかは、法令を読むだけでは分かりません。
人事担当(人事部・厚生班など、呼び方は部隊によって違います)に確認するのが確実です。
承認される基準は、2つだけ
防衛大臣(またはその委任を受けた人)は、どんな基準で承認するかどうかを決めているのでしょうか。
施行規則を見ると、条件は驚くほどシンプルです。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 利害関係が無いこと | いまの職務と、つこうとする地位・営もうとする企業との間に、特別な利害関係が無い、またはその心配が無いこと |
| 職務に支障が無いこと | その地位につく、またはその企業を営むことで、自分の職務の遂行に支障が生じないこと |
この2つを満たすと防衛大臣が認めた場合に限り、承認されます。
難しい専門知識がいる基準ではなく、「利益相反が無いか」「仕事に支障が無いか」という、常識的な物差しです。
63条の場合にも、同じ2つの基準がそのまま使われます。
承認をもらっても、勤務時間中は仕事が最優先
承認が下りれば、それで自由に動けるわけではありません。
自衛隊法にはもともと、隊員は勤務時間のすべてを職務に使わなければならない、という決まりがあります(60条・職務に専念する義務)。
ここまで見てきた承認は、この原則の例外を認めるものにすぎません。
具体的には、次の2つの制約が付きます。
- 承認された範囲の中でだけ、自分の勤務時間を副業に充てられる。その分の時間には、給与が減額される
- たとえ承認を受けていても、上官から職務に関して勤務するよう命じられたら、直ちに従わなければならない
2つ目がとくに重要です。
副業の予定が入っていても、任務命令が出れば、そちらが優先されます。
この点は、一般の公務員の兼業許可には無い、自衛官ならではの制約と言えます。
無許可で行うと、どうなるか
承認を受けずに会社の役員になったり、無断でアルバイトをしたりすると、どうなるのでしょうか。
自衛隊法には懲戒処分の規定があります。
職務上の義務に違反した場合は、免職・降任・停職・減給・戒告のいずれかの処分を受ける可能性があります(46条1項1号)。
ここまで見てきた承認を受ける義務も、隊員の職務上の義務の一つです。
「バレなければ大丈夫」という発想で動くと、懲戒処分の対象になり得ることを、まず押さえておいてください。
予備自衛官等兼業特例法(記事11)とは、何が違うのか
ここまで説明してきたのは、現役の隊員が使う、一般的な兼業承認の仕組みです。
似た名前の制度に、記事11で扱った予備自衛官等兼業特例法があります。
この2つは、対象にしている人がまったく違います。
| この記事(62条・63条) | 予備自衛官等兼業特例法(記事11) | |
|---|---|---|
| 対象になる人 | 現役の隊員(自衛官・事務官等) | 予備自衛官・即応予備自衛官 |
| ふだんの立場 | 自衛隊に常時勤務している | 民間企業などに勤めながら、必要な時だけ招集される |
| この記事・記事11で扱う内容 | 民間の仕事を副業として持つときの承認手続き | 招集に応じて自衛隊の職務に就く際の、勤務先との関係の整理 |
現役で自衛隊に勤めている人が、この記事の対象です。
民間企業に勤めながら予備自衛官として登録している人は、記事11の対象になります。
どちらに当てはまるか迷ったら、まず自分がいまどちらの立場にあるかを確認してください。
🔗 あわせて読みたい
自衛官を退いたあと、公務員として働きながら予備自衛官を続ける道を考えている方は、2026年6月に公布された特例法(まだ施行前です)も見ておいてください。
→「公務員が予備自衛官を兼ねるには?予備自衛官等兼業特例法を条文で読む」
実際に動くときの手順
ここまでで、根拠になる条文と基準は分かりました。
あとは、実際にどう動けばいいかです。
部隊や機関によって窓口の呼び方は違うので、大枠の流れとして見てください。
- やりたいことが62条(会社役員・自営業)と63条(それ以外の有給の仕事や事業)のどちらに当たるかを整理する
- 上官や身近な人事担当に、まず口頭で相談する
- 所属する部隊・機関で、承認の権限がどこまで委任されているかを確認する
- 利害関係が無いか、職務に支障が無いかを、自分の言葉で説明できるように整理する
- 承認申請の様式を人事担当から受け取り、必要事項を記入して提出する
- 承認が下りたら、承認された範囲(時間・内容)を書面で保管しておく
焦って自己判断で始めるより、早い段階で上官や人事担当に話しておくほうが、結局は近道です。
1人で抱え込まず、まずは声をかけてみてください。
自分の立場を確かめるチェックリスト
何を、誰に、どう相談するかを整理しておくと、話がスムーズに進みます。
自分は自衛官か、防衛省の事務官等か。「隊員」に当てはまるか
やりたいことは62条(会社役員・自営業)か、63条(それ以外の有給の仕事や事業)か
上官や人事担当には、もう相談したか。していない場合、いつ話すか
所属先で承認の権限は、どこまで委任されているか
利害関係の無さ・職務への支障の無さを、自分の言葉で説明できるか
承認を得たあとも、職務命令が優先することを理解しているか
このページを印刷すると、この1枚だけが出ます。ブラウザの印刷からPDFとして保存することもできます。
❓ よくある質問
Q. 自衛官と、防衛省で働く事務官では、扱いが違いますか。
A. 自衛隊法上の「隊員」には、自衛官も防衛省の事務官等も含まれます。
この記事で説明した兼業承認の仕組みは、どちらにも同じように当てはまります。
Q. 予備自衛官として兼業したい場合も、この記事の内容で足りますか。
A. 足りません。
予備自衛官・即応予備自衛官の兼業には、予備自衛官等兼業特例法という別の法律が関わります。
記事11で扱っています。
Q. それ以外の有給の仕事の承認は、実際には誰に相談すればよいですか。
A. 承認権限をどこまで委任しているかは、部隊・機関ごとの内部規程で決まっています。
法令を読むだけでは分からないため、所属先の人事担当に確認するのが確実です。
Q. 承認を得るまでに、どれくらいの期間がかかりますか。
A. この記事で確認できた一次情報の範囲では、期間についての定めは見当たりませんでした。
所属先ごとに実務の流れが異なるため、人事担当に直接確認してください。
Q. 会社役員になる話と、それ以外の仕事の話、両方の承認が必要になることはありますか。
A. あります。
たとえば会社の役員になり、同時に別の仕事で報酬を受け取る場合は、両方の承認が必要になる可能性があります。
内容ごとに、必要な承認を分けて確認してください。
Q. 無許可で副業をした場合、必ず懲戒処分になりますか。
A. さきほどの懲戒処分の規定は「処分をすることができる」という書き方で、必ず処分される、という規定ではありません。
ただし職務上の義務違反にあたるため、処分の対象になり得ることは押さえておく必要があります。
Q. この記事は、いつの時点の情報ですか。
A. 2026年9月8日に、e-Gov法令検索で自衛隊法・自衛隊法施行規則・国家公務員法の現行版を確認した内容です。
まとめ
- 自衛官(隊員)の兼業許可の根拠は自衛隊法62条・63条。国家公務員法103条・104条は適用されない(国家公務員法2条3項16号・5項)
- 62条は会社役員・自営業、63条はそれ以外の有給の仕事・非営利事業が対象
- 63条は条文だけ見ると防衛大臣本人の承認に見えるが、自衛隊法施行規則64条が承認権限の委任を認めている
- 承認の基準は利害関係の無さ・職務への支障の無さの2つ
- 承認後も上官の職務命令が優先する。無許可の兼業は懲戒処分の対象になり得る
- 予備自衛官・即応予備自衛官の兼業は別の法律(記事11)が対象。この記事とは対象が異なる
✏️ 筆者から一言
自衛官の制度を調べていると、同じ「防衛大臣の承認」という言葉が出てきても、条文によって書きぶりが微妙に違うことに気づきます。
片方の条文には「委任を受けた者」と書いてあるのに、もう片方には書いていない。
それだけを見て「委任できないのでは」と早合点しかけましたが、施行規則までたどると、答えはまったく別のところにありました。
法律の条文は、それ単体で完結していないことがあります。
本文の1文だけで判断せず、その下にある省令や規則まで降りてみる。
手間はかかりますが、たどってみると、たいてい理由がちゃんと用意されています。
同じような「あれ、思っていたのと違う」は、ほかの制度にもまだ隠れているはずです。
📖 次に読みたい記事
- 公務員の副業の全体像から確かめたいなら →「公務員の副業・兼業はどこまでOK?」
- 予備自衛官としての兼業を調べているなら →「公務員が予備自衛官を兼ねるには?」
- 全体像から確かめたいなら →「公務員のキャリア形成完全ガイド」
📚 この記事で参照した一次情報
最終確認 2026年9月8日。
法令・制度の記述は、年に1度と制度改正のときに見直しています。

