公開 2026年10月3日
10月に入って、庁内の研修の案内が回ってきた。
上司に「これ、行ってきてくれる?」と言われたものの、来月は予定が詰まっています。
断っていいのか、そもそも断れるものなのか。
聞き返す前に、頭の中で言い訳ばかりが並んでしまう人は多いはずです。
逆の悩みもあります。
自分で見つけた平日のオンライン講座に、どうしても出たい。
でも勤務時間中に受けていいのか分からず、申し込みボタンの前で手が止まっている。
どちらも、研修をめぐる同じ線引きの話です。
先に答えを言うと、職場から命じられた研修は、上司の職務上の命令に従う義務の対象になります(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)。
一方、自分で選んだ研修を勤務時間中に受けるなら、別の手当てが要ります(国家公務員法101条1項、地方公務員法35条)。
研修の機会、命じられた研修、自分で選ぶ研修、勤務時間外の学び。
この4つを、条文で順に確かめます。
※本サイトでいう「公務員」には、独立行政法人・国立大学法人・日本銀行・日本年金機構等の職員(いわゆる準公務員)も含みます。
副業・兼業規定が国家公務員法・地方公務員法に準拠、または類似している職種を主な対象としています。
⚠️ 先にお断りしておきます
この記事は、一般職の国家公務員と地方公務員の条文を読んだものです。
公立学校の先生が学校の外で受ける研修は、別の法律(教育公務員特例法)が絡みます。
自衛官は国家公務員法の外にいるので、そのまま当てはまりません。
また、勤務時間中に自分で選んだ研修を受けるときの具体的な扱いは、職場の決まりに左右されます。
条文だけでは言い切れない部分は、そう書きます。
この記事の結論
📌 結論を先に
- 職員には研修を受ける機会が確保される。国は計画を立てて必要かつ適切な機会を確保し、地方は機会が与えられなければならないと定める(国家公務員法70条の6、地方公務員法39条1項)
- 研修の目的は、職務に必要な知識・技能を身につけ、能力を高めること(国家公務員法70条の5)
- 上司の職務上の命令には忠実に従う義務がある(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)。命じられた研修も、気が進まないだけでは断る理由になりにくい
- ただし、体調や家庭の事情など受けられない事情は、早めに伝えて調整してよい
- 自分で選んだ研修を勤務時間中に受けるのは、職務専念義務とぶつかる(国家公務員法101条1項、地方公務員法35条)
- 年休を1時間単位で取って受ける道もある(人事院規則15―14第20条)
- 休日や終業後の学びは、職務専念義務の対象になる「勤務時間」の外にある
そもそも、研修は「受けさせてもらえる」ものなのか
まず、研修の位置づけです。
ここが分かると、命じられたときの気持ちも少し変わります。
国家公務員法は、研修の目的をこう決めています。
いまの仕事や、これから就く仕事に必要な知識と技能を身につけ、能力を高めること(70条の5第1項)。
つまり、研修は趣味の講座ではなく、仕事のために用意された仕組みです。
計画を立てるのは、人事院・内閣総理大臣・関係庁の長です。
その計画は、必要で適切な研修の機会を確保するものでなければなりません(70条の6第1項・2項)。
地方公務員法はもっと端的で、職員には研修を受ける機会が与えられなければならないと書いています(39条1項)。
| 国家公務員 | 地方公務員 | |
|---|---|---|
| 研修の目的・位置づけ | 職務の遂行に必要な知識・技能を習得させ、能力・資質を向上させる(70条の5) | 勤務能率の発揮・増進のために研修を受ける機会を与える(39条1項) |
| 誰が行うか | 人事院・内閣総理大臣・関係庁の長が計画を立て実施に努める(70条の6) | 任命権者が行う(39条2項) |
| 方針の定め | 計画は必要かつ適切な機会を確保するもの(70条の6第2項) | 自治体が研修の目標・方針を定める(39条3項)。人事委員会は任命権者に勧告できる(同4項) |
ここで見落としたくないのは、研修が「受ける側の権利」としても「仕事を支える仕組み」としても書かれていることです。
研修の案内は、上司の気まぐれではなく、組織が条文に沿って用意した機会のひとつです。
とはいえ、予定が詰まっているときに回ってくる案内は、やっぱり重たいものです。
その気持ちは、条文を読んでも消えません。
消す必要もないと思います。
「行ってきて」は、お願いではなく命令かもしれない
次に、断れるのかどうかです。
職員は、仕事を進めるうえで、法令に従い、上司の職務上の命令に忠実に従わなければなりません(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)。
「行ってきてくれる?」という言い方は柔らかくても、職務として研修への参加を指示されたなら、この命令にあたりうるということです。
そして、職務上の義務に違反したり、職務を怠ったりしたときは、懲戒処分の対象にできると条文に書かれています(国家公務員法82条1項2号、地方公務員法29条1項2号)。
条文は「できる」と書いているだけで、実際にどの程度の処分になるかは、各機関の基準によります。
ただ、「気が進まないから出ない」が通る世界ではない、ということは頭に置いておいたほうが安全です。
ここまで読んで、肩が重くなった人もいると思います。
でも、条文が求めているのは「何があっても出ろ」ではありません。
命令に従う義務と、受けられない事情を伝えて調整することは、別の話です。
| 受けられない事情 | どう伝えるか |
|---|---|
| その日に外せない仕事(締め切り・窓口の当番)がある | 日付と仕事の中身を具体的に言い、別の日の枠で受けられないか聞く |
| 体調や通院の予定がある | 細かい病名は不要。「その日は通院があり難しい」と事実を短く伝える |
| 家族の介護や送迎で外せない | いつまで続くか分かる範囲で伝え、受講できる別の機会を探してもらう |
| 内容がすでに身についている | 「すでに受講済み」「同じ内容を前に受けた」と、根拠を示して相談する |
私は、断るかどうかを迷う前に、「いつなら受けられるか」を先に考えるのが現実的だと思っています。
命令を受け入れつつ、日程を調整する。
この形なら、上司の側も次の手を打ちやすくなります。
調整しても無理なときは、無理な事情が上司に伝わっていることが、あとで効いてきます。
🔗 あわせて読みたい
先生の場合、学校の外での研修には別の条文があります。
夏休みに研究会へ行きたい人は、こちらを先に読んでください。
→「夏休み、先生は学校の外で研修できる?公立学校の教員の「22条2項の研修」を条文で確かめる」
自分で選んだ研修を、勤務時間中に受けていい?
今度は、逆の場面です。
自分で見つけた講座に出たい。
でも、勤務時間中に受けていいのか。
国家公務員は、勤務時間と注意力のすべてを職責の遂行のために使います。
法律や命令に定めがある場合を除いて、政府がなすべき職務にだけ従事します(国家公務員法101条1項)。
地方公務員も、法律又は条例に特別の定めがある場合を除いて、同じです(地方公務員法35条)。
これが職務専念義務です。
つまり、自分が学びたいから、という理由だけで勤務時間を使って講座を受けると、この義務とぶつかります。
例外は、法律や命令(国)、法律や条例(地方)に定めがあるときだけです。
どんな場合に免除されるのか、その具体的な中身は、職場の決まりを確かめる必要があります。
この記事では、その部分を一次情報で確かめきれていないので、書かないでおきます。
申し込みボタンの前で止まってしまうのは、むしろ正しい感覚です。
勝手に受けてしまうのも、何もしないで諦めるのも、もったいないことです。
間に、確かめて、申し出るという一手があります。
| 場面 | 条文から言えること | 動き方 |
|---|---|---|
| 上司から命じられた研修を勤務時間中に受ける | 職務上の命令の対象になりうる | 日程の調整はしつつ、受ける前提で動く |
| 自分で選んだ講座を勤務時間中に受ける | 職務専念義務とぶつかる | 職場の決まりを確かめ、承認の道がなければ年休を使う |
| 休日や終業後に自費で学ぶ | 勤務時間の外にあり、職務専念義務の対象ではない | 自由に学んでよい。ただし有償の講師は別(兼業の記事へ) |
年休を1時間だけ使って受ける、という手がある
職場の決まりで自分の講座が認められないとき、現実的な手が年休です。
年休は、1日が基本ですが、特に必要があると認められるときは、1時間や15分の単位でも取れます(人事院規則15―14第20条1項)。
時間で取った分は、7時間45分で1日と数えます(同条2項1号)。
午後の2時間だけオンライン講座に出る、というような使い方ができます。
年休は、取りたい時期を職場に伝えて承認を受けます。
公務の運営に支障がある場合を除いて、職場は承認しなければなりません(勤務時間法17条3項)。
条文を見るかぎり、承認の物差しは「公務に支障があるか」で、休んで何をするかではありません。
ですから、自分の学びのために年休を使うことは、条文の上では問題にならないはずです。
地方公務員の休暇は条例で決まるので、時間単位で取れるかどうかは自分の自治体で確かめてください。
年休の日数や持ち越しのルールは、記事38で詳しく確かめています。
学びのために年休を使うなら、残りの日数を先に見ておくと安心です。
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年休は1日、1時間、15分の単位で取れます。
自分の学びに使う前に、日数と持ち越しの決まりを確かめておくと安心です。
→「年休が余ったら、来年に持ち越せる?公務員の「年次休暇」の日数と繰り越しを条文で確かめる」
休日や終業後の学びは自由。ただし、講師は別
職務専念義務が縛っているのは、勤務時間です(国家公務員法101条1項、地方公務員法35条)。
休日や終業後に、自分のお金と時間で講座を受けたり、資格の勉強をしたりすることは、この義務の外にあります。
ですから、「勤務時間中でなければ、何を学んでもいい」というのが、条文の素直な読み方です。
自費セミナーに通う、オンライン講座を夜に受ける、本を読む。
遠慮せず、やってみてください。
一点だけ注意があります。
受ける側ではなく、教える側に回るとき、特に報酬が出るときは、兼業の規制が別に絡みます。
セミナーの講師や、学んだことを活かした執筆などを頼まれたら、先に副業・兼業のルールを確かめておいてください。
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学んだことを外で教える、書く、という話になったら、兼業の線引きが関わってきます。
→「公務員の副業・兼業はどこまでOK?2026年4月の制度改正を一次情報で整理」
地方公務員・先生・警察官・自衛官は?
地方公務員は、研修の機会を与えられる立場で(地方公務員法39条1項)、研修を行うのは任命権者です(同2項)。
自治体ごとに研修の目標や方針を定めることになっているので(同3項)、研修の種類や受講のルールは自治体で違います。
自分の自治体の研修の案内や、職員向けの手引きで確かめてください。
公立学校の先生は、地方公務員法に加えて教育公務員特例法が絡みます。
学校の外で研修を受けるときの承認は、記事36で確かめています。
警察官の大半は都道府県の職員なので、地方公務員の側で確かめます。
自衛官は、国家公務員法が適用されない特別職です(国家公務員法2条3項・5項)。
研修の扱いは防衛省の決まりにあり、この記事の内容はそのまま当てはまりません。
部隊の人事の担当に確かめてください。
次にやること
案内が回ってきたとき、あるいは申し込みボタンの前で止まったとき、順番に確かめられるよう並べておきます。
- 案内の差出人を見る。職場や任命権者が行う研修か、自分で見つけた外部の講座か
- 職場の研修なら、日程と自分の予定を並べ、重なる日を書き出す
- 重なるなら、「いつなら受けられるか」の候補を2つ以上用意して、上司に相談する
- 自分で見つけた講座なら、勤務時間中に受けるかを決める。職場の決まりを人事の担当に確かめる
- 勤務時間内に受けたい講座は、年休の時間単位で取れるかを確かめて、残りの日数を見る
- 休日や終業後に受ける講座なら、そのまま申し込む。講師を頼まれたら兼業の記事を読む
研修の確認メモ
分かるところだけで十分です。空いた欄は、人事や上司に聞くことのリストになります。
来ている案内(職場の研修か、自分で見つけた講座か)
日程と、自分の予定が重なる日
受けられない事情があれば、その中身
調整してもらえそうな別の日
勤務時間中に受けたい講座の名前と時間数
自分の職場の決まり(国・自治体の条例・自衛官)
担当に聞くこと(承認の道・時間単位の年休など)
このページを印刷すると、この1枚だけが出ます。ブラウザの印刷からPDFとして保存することもできます。
❓ よくある質問
Q. 上司に研修へ行ってきてと言われたら、断れませんか。
A. 職務上の命令には忠実に従う義務があります(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)。
気が進まないだけでは断る理由になりにくいです。
体調や家庭の事情など受けられない事情は、早めに伝えて日程を調整してください。
Q. 研修を断ったら、懲戒になりますか。
A. 職務上の義務に違反したときや、職務を怠ったときは、懲戒処分ができます(国家公務員法82条1項2号、地方公務員法29条1項2号)。
ただし、実際の処分の重さは各機関の基準によります。
Q. 自分で見つけた講座を、勤務時間中に受けてもいいですか。
A. 勤務時間は職責の遂行のために使うのが原則です(国家公務員法101条1項、地方公務員法35条)。
例外の具体的な範囲は職場の決まりによるので、人事の担当に確かめてください。
Q. 年休を使って、自分の学びの講座を受けられますか。
A. 年休は、公務の運営に支障がある場合を除いて、職場は承認しなければなりません(勤務時間法17条3項)。
条文の上では、休んで何をするかは物差しになっていません。
Q. 年休を1時間だけ使えますか。
A. 国家公務員は、特に必要があると認められるとき、1時間や15分の単位で取れます(人事院規則15―14第20条1項)。
地方公務員は自治体の条例で決まるので、自分の自治体で確かめてください。
Q. 休日に自費で受ける講座にも、許可が要りますか。
A. 職務専念義務は勤務時間についての義務です。
休日や終業後に自分で受ける講座は、この義務の外にあります。
ただし、有償で講師を務めるなどの場合は、兼業の規制を確かめてください。
Q. 地方公務員も同じですか。
A. 地方公務員法にも同じ趣旨の条文があります。
研修の種類や受講のルール、休暇の扱いは自治体ごとに違うので、条例と規則で確かめてください。
Q. この記事は、いつの時点の情報ですか。
A. 2026年10月3日に、e-Gov 法令検索で法律と人事院規則の条文を確かめた内容です。
国家公務員法には2026年11月2日施行の改正があります。
この記事で引いた条文は、その前後で同じ文です。
まとめ
- 研修は、職務に必要な知識・技能を身につけるために用意された仕組み(国家公務員法70条の5・70条の6、地方公務員法39条)
- 命じられた研修は、上司の職務上の命令の対象になりうる(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)
- 受けられない事情は、早めに伝えて日程を調整する
- 自分で選んだ研修を勤務時間中に受けるのは、職務専念義務とぶつかる
- 年休を1時間単位で取って受ける道がある。承認の物差しは「公務に支障があるか」
- 休日や終業後の学びは自由。講師を頼まれたら兼業の記事へ
✏️ 筆者から一言
私は、学ぶことも、動いてみてから修正していくものだと考えています。
完璧な準備を整えてから申し込むより、まず動いてみる。
やってみて合わなければ、次の講座を試せばいいだけです。
ただ、公務員は動く前に確かめておくことが多い立場でもあります。
その意味では、案内を読み返して、職場の決まりを人事の担当に聞いてみることも、立派な行動のひとつです。
今日、気になっている講座を1つだけ、候補として書き出してみてください。
📖 次に読みたい記事
- 年休の日数と持ち越しを確かめたいなら →「年休が余ったら、来年に持ち越せる?公務員の「年次休暇」の日数と繰り越しを条文で確かめる」
- 働きながら大学院や専門学校で学びたくなったら →「働きながら大学院や専門学校に通える?地方公務員の「修学部分休業」を条文で確かめる」
- 休業して大学院で学び直したくなったら →「公務員が大学院で学び直すには?無給の休業「自己啓発等休業」を条文で確かめる」
- 人事評価で何を見られているのか知りたいなら →「人事評価、何をどう見られている?公務員の「能力評価」と「業績評価」を条文で確かめる」
- 全体像から確かめたいなら →「公務員のキャリア形成完全ガイド」
📚 この記事で参照した一次情報
- e-Gov 法令検索|国家公務員法
- e-Gov 法令検索|地方公務員法
- e-Gov 法令検索|一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律
- e-Gov 法令検索|人事院規則一五―一四(職員の勤務時間、休日及び休暇)
最終確認 2026年10月3日。
法令・制度の記述は、年に1度と制度改正のときに見直しています。

