仕事中や通勤中のけが、共済の保険証は使えない?公務災害・通勤災害の補償を条文で確かめる

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公開 2026年9月18日

庁舎の階段を下りていて、足を踏み外した。
近くの整形外科に駆け込んで、受付で共済の保険証を出そうとしたら、電話の向こうの人事担当に止められます。
「それ、出さないでください」。

えっ、と思いますよね。
毎月しっかり掛金を引かれているのに、いざというときに使えないのか、と。

使えないのは本当です。
ただしそれは、冷たくされているのではなく、もっと手厚い別の制度に移してもらえるからです。
この記事では、その別の制度を条文で確かめていきます。

※本サイトでいう「公務員」には、独立行政法人・国立大学法人・日本銀行・日本年金機構等の職員(いわゆる準公務員)も含みます。
副業・兼業規定が国家公務員法・地方公務員法に準拠、または類似している職種を主な対象としています。

⚠️ 先にお断りしておきます

軸にするのは常勤の地方公務員のルールです。
国家公務員と自衛官は、違うところだけ別に書きます。
そして、自分のけがが「公務上」と認められるかどうかの見通しは、ここでは示しません。
その判断は個別の事情で決まります。
書けるのは、制度の枠と手続きの流れまでです。

この記事の結論

📌 結論を先に

  • 仕事中や通勤中のけがに、共済の保険証は使わない
  • 代わりに公務災害・通勤災害の補償から、必要な治療がまるごと出る
  • 公務のけがかどうかを決めるのは職場ではない。地方は基金、国は実施機関
  • 給料が出ない日には平均給与額の60%の休業補償
  • 通勤の寄り道は原則アウト。ただし5種類の用事だけ例外
  • 無許可の副業先から職場へ向かう途中は、通勤に入らない
  • 辞めたあとでも請求する権利は消えない
  • 請求できるのは2年まで(障害と遺族は5年)

保険証を出さない理由は、共済の条文に書いてある

共済組合が治療費を持ってくれるのは、公務によらない病気やけがのときだけです(地方公務員等共済組合法56条1項)。
条文にそう書いてあります。

休んだときの傷病手当金も、亡くなったときの埋葬料も、同じ書き出しで始まります。
どれも「公務によらないで」が入口の条件になっています。

つまり共済は、仕事の外で起きたことを引き受ける制度です。
仕事の中で起きたことは、はじめから別の担当に振り分けられています。

振り分けられた先は、こちらのほうが手厚い

公務のけがを引き受けるのは、災害補償の制度です。
地方公務員なら地方公務員災害補償法、国家公務員なら国家公務員災害補償法が根拠になります。

ここでは治療費の3割を払うという考え方がありません。
必要な療養そのものを出す、という作りだからです(地公災法26条)。
範囲は次の6つです。

療養補償に入るもの条文
診察地公災法27条1号/国公災法11条1号
薬や治療材料同2号
処置・手術その他の治療同3号
自宅での療養の管理と看護同4号
入院と、そのときの看護同5号
移送同6号

ちなみに、公務員には労災保険は使えません。
労働者災害補償保険法は職員には当てはまらない、と災害補償法のほうに書いてあります(地公災法67条2項)。
民間の「労災」と呼び分けて「公務災害」と言うのは、そのためです。

公務のけがだと決めるのは、職場ではない

ここが、いちばん誤解されやすいところです。
上司が「それは公務じゃないだろう」と言ったとしても、それは決定ではありません。
認定する人が、法律で別に決まっています。

立場認定するのは根拠
地方公務員地方公務員災害補償基金地公災法45条1項
国家公務員(一般職)人事院が指定した実施機関国公災法3条1項
自衛官など防衛省の職員防衛大臣が指定した機関防衛省職員給与法27条1項

地方公務員の場合、基金は自治体とは別の法人です。
認定するときは任命権者の意見を聞きますが、決めるのは基金のほうです。
請求書は人事担当を通して基金へ渡ります(施行規則30条1項)。

国家公務員には、もう一つ心強い決まりがあります。
実施機関は、あなたに権利があることを速やかに知らせなければならない(国公災法8条)。
黙っているのは許されていません。

受けられるのは7種類ある

治療費だけではありません。
補償は7つに分かれていて、状態に応じて出るものが変わります。

補償の種類どんなときに中身
療養補償治療を受けるとき必要な療養、またはその費用
休業補償休んで給料が出ないとき平均給与額の60%
傷病補償年金療養が長引いて重い状態が続くとき年金(請求は要らない)
障害補償治ったあとに障害が残ったとき1〜7級は年金、8〜14級は一時金
介護補償介護を受けているとき介護の費用
遺族補償亡くなったとき年金または一時金
葬祭補償葬祭を行うとき葬祭の費用

傷病補償年金を除いて、どれも請求しないと始まりません(地公災法25条2項)。
待っていれば向こうから出てくる、という作りにはなっていません。

障害補償の年金は、いちばん重い1級で平均給与額の313日分が毎年出ます。
一時金のほうは、8級で503日分です。
どの級に当たるかは総務省令の表で決まるので、ここでは日数だけを置いておきます。

休んだ日の給料はどうなるか

休業補償は、療養のために働けず、しかも給与を受けないときに出ます(地公災法28条)。
額は平均給与額の60%です。

裏を返すと、給料が出ている間は休業補償は出ません。
多くの職場では、まず病気休暇で給料が出ます。
それが尽きて無給になったところから、休業補償の出番になります。

国家公務員には、90日の枠が当たらない

国家公務員の病気休暇には、原則として連続90日という上限があります。
ただし公務や通勤が原因のけが・病気は、この90日の数えかたから外れています(人事院規則15-14 21条1項)。

長く休む場合の給料の変わりかたは、病気で長く休んだら、公務員の給料はどうなる?で時期ごとに追いかけています。
あわせて読むと、どこから休業補償に切り替わるかが見えてきます。

平均給与額という言葉

60%の元になる平均給与額は、けがをした月の前月の末日から、さかのぼって3か月。
その間に払われた給与の総額を、その期間の日数で割った額です(地公災法2条4項)。
月給を30で割った額に近い数字になります。

60%では足りない、と感じた人へ。
基金には福祉事業という枠があり、療養生活を支える資金の支給などが用意されています(47条1項2号)。
ただし額は法令に書かれていませんので、この記事では金額を出しません。
基金と人事担当に直接聞いてください。

通勤中のけがは、どこまで入るか

通勤災害でつまずきやすいのは、寄り道の扱いです。
まず、通勤として認められる移動は3つに絞られています(地公災法2条2項)。

通勤に当たる移動補足
家と職場の往復いちばん基本の形
職場から別の職場への移動兼務先や出先機関への移動もここ
単身赴任先と家族の住む家の行き来単身赴任手当を受ける人など(施行規則1条の4第3項)

そして条件が2つ付きます。
合理的な経路であること。
合理的な方法であること。
遠回りや、免許を持たない運転は、この条件から外れます。

寄り道をした瞬間、通勤ではなくなる

経路を外れたり、途中で用事をはさんだりすると、その間も、その後の移動も通勤ではなくなります。
帰り道に居酒屋へ寄れば、店を出たあとの帰り道まで通勤から外れる、ということです。

ただし例外が5つあります。
日常生活に欠かせない用事を、やむを得ずに、最小限で済ませた場合です。
このときは、用事をしている間だけが通勤から外れて、経路に戻れば通勤に復帰します。

寄り道が許される5つの用事例
日用品の買い物帰りにスーパーで夕飯の材料を買う
学校や職業訓練での学び夜間の大学院や職業訓練校に通う
病院や診療所での診察・治療帰りに歯科へ寄る
選挙権を使うこと期日前投票に寄る
家族の介護2週間以上支障がある親などを、続けて介護する

5つ目の介護は、対象になる家族の範囲まで決められています。
配偶者・子・父母・配偶者の父母のほか、孫・祖父母・兄弟姉妹も入ります。
介護の制度そのものは親の介護が始まったら、公務員は休める?で扱いました。

通勤災害だけ、200円を払う

公務上のけがと違い、通勤災害には一部負担金があります(地公災法66条の2)。
額は200円で、休業補償から差し引かれる形です。
第三者にぶつけられた場合など、払わなくてよい人も決まっています。

無許可の副業先からの移動は、通勤に入らない

ここは、あまり知られていない論点です。

さきほどの「職場から別の職場への移動」には、公務員の職場以外も含まれます。
民間のアルバイト先からそのまま庁舎へ向かうような場合です(施行規則1条の4第1項)。

ところが条文には、はっきりした除外が置かれています。
許可を取らずに働いている場所からの移動は、通勤に入りません。
地方公務員なら地公法38条1項に反している場合です(施行規則1条の4第2項)。

立場外れる根拠になる条文どこに書いてあるか
地方公務員地公法38条1項(営利企業への従事等の制限)施行規則1条の4第2項
公立学校の教職員教育公務員特例法17条1項同上
国家公務員国公法103条1項・104条人事院規則16-0 3条の2第2項
自衛官自衛隊法62条1項防衛省職員給与法27条1項

許可を取っていない副業は、処分の話だけで終わりません。
その行き帰りにけがをしても、通勤災害として扱われないところまで響きます。
許可の線引きは公務員の副業・兼業はどこまでOK?にまとめてあります。

自分は「職員」に入っているか

災害補償法が守るのは、常勤の地方公務員です(地公災法2条1項1号)。
常勤でなくても、この枠に入る人が政令で決められています。

常勤でなくても入る人根拠
定年前再任用短時間勤務の職に就いている人施行令1条1項1号
常勤と同じ勤務時間以上で働いた日が続けて12か月を超え、その後も同じ勤務時間で働く人施行令1条1項2号
一定の船員施行令1条1項3号

ここに入らない非常勤の人は、労災保険が使えるならそちらです。
どちらも当てはまらない人のために、自治体は条例で補償の制度を作る義務を負っています(地公災法69条1項)。
その条例は、国の制度と釣り合いを失ってはいけない、とも書かれています。

会計年度任用職員として働く人の立場は、会計年度任用職員の副業はどこまでOK?でも整理しました。
フルタイムかパートタイムかで、いろいろな制度の当たり方が変わります。

自衛官はどうなるか

自衛官を含む防衛省の職員には、国家公務員災害補償法の中身がそのまま当てはまります(防衛省職員給与法27条1項)。
補償の種類も、休業補償の60%も、時効の年数も同じです。

違うのは、言葉の置き換わりかたです。
人事院規則と書いてあるところは政令に、人事院と書いてあるところは防衛大臣に読み替わります。

さらに、防衛省だけの政令が1本あります。
防衛出動で武力を行使したときなど、政令が並べる職務による災害には、年金や遺族補償の特例が置かれています(防衛省の政令2条)。

認定に納得できないとき

公務上とは認められない、という結果が返ってくることもあります。
そこで終わりではありません。
不服を申し立てる道が、法律に用意されています。

立場申し立てる先その先
地方公務員(基金の決定)地方公務員災害補償基金審査会裁決のあと、取消しの訴え(地公災法56条)
地方公務員(支部の決定)支部審査会審査会へ再審査請求(地公災法51条2項)
国家公務員人事院人事院が審査して判定(国公災法24条1項)

支部審査会に出したまま3か月たっても返事が来ないときは、棄却されたものとみなして、次へ進むことができます(地公災法51条3項)。
待たされ続ける状態を避けるための決まりです。

急いだほうがよい理由

補償を受ける権利には時効があります(地公災法63条)。

補償の種類時効
療養補償・休業補償・介護補償・葬祭補償2年
障害補償・遺族補償5年
(国家公務員は傷病補償年金も)5年

一方で、辞めたあとでも請求はできます。
離職しても権利は影響を受けない、と条文にあるからです(地公災法62条1項)。
受け取った補償に税金がかからないことも、あわせて書かれています。

けがをしたら、その日のうちにやること

  1. 病院で「仕事中(通勤中)のけがです」と伝える
  2. 共済の保険証を出す前に、人事担当へ電話する
  3. いつ・どこで・何をしていて起きたかを、記憶が新しいうちに書き残す
  4. 見ていた人がいれば、名前を控える
  5. 通勤なら、いつもの経路だったか、寄り道があったかを思い出して書く
  6. 人事担当に、認定の請求書の出しかたを聞く
  7. 立て替えた治療費の領収書を、まとめて保管する
  8. 無給になる日が出てきたら、休業補償の請求のしかたを聞く

3番目が、あとで効いてきます。
認定は書類で進みます。
その日の状況を思い出せる人は、本人しかいません。

公務災害・通勤災害の申請メモ

人事担当に相談する前に、分かるところだけ埋めてください。空いた欄が、そのまま相談で聞くことになります。

けがをした日時と場所

何をしていて、どうして起きたか

見ていた人の名前と連絡先

通勤中なら、経路と寄り道の有無

かかった病院と、立て替えた費用

自分の立場(常勤か、非常勤か。非常勤なら根拠はどれか)

人事担当に聞くこと(請求書の様式・提出先・休業補償の扱い)

このページを印刷すると、この1枚だけが出ます。ブラウザの印刷からPDFとして保存することもできます。

❓ よくある質問

Q. うっかり共済の保険証を出してしまいました。

A. 気づいた時点で、病院と人事担当の両方に伝えてください。
共済組合は、事故が公務や通勤によるものかを認定するとき、補償の実施機関の意見を聞く決まりです(地共済法42条2項)。
あとから精算し直す流れになります。

Q. 在宅勤務中に、自宅でけがをしました。

A. 在宅勤務だから公務ではない、という条文はありません。
公務上かどうかは、そのときの状況で判断されます。
何をしていたかを具体的に書き残して、人事担当に相談してください。

Q. 通勤の途中でスーパーに寄り、店内で転びました。

A. 日用品の買い物は、寄り道が許される5つの用事の1つです。
ただし許されるのは経路に戻ったあとで、店の中にいる間そのものは通勤から外れます。

Q. 自転車通勤を届け出ていません。
補償されますか。

A. 条文が求めているのは、合理的な経路と方法であることです。
届出の有無をそのまま条件にしている文言は見当たりませんでした。
ただし届出は職場の服務の話として別にありますので、早めに出しておくほうが安全です。

Q. 公務災害で休んでいる間に、退職することになりました。

A. 権利は消えません。
離職しても補償を受ける権利は影響を受けない、と書かれています(地公災法62条1項・国公災法7条1項)。

Q. 持病が仕事で悪くなった場合はどうなりますか。

A. 疾病も補償の対象に入っています。
ただし公務が原因だと認められるかは、個別の判断です。
医師に経過を詳しく伝え、人事担当へ相談してください。

Q. 加害者がいる交通事故のときは、二重にもらえますか。

A. もらえません。
補償を行った側が、その分だけ加害者への請求権を引き継ぐ形になります(国公災法6条1項)。
示談をする前に、必ず基金や実施機関へ相談してください。

Q. 補償で受け取ったお金に、税金はかかりますか。

A. かかりません。
補償として受けた金品には課税しない、と条文にあります(地公災法65条)。

Q. この記事は、いつの時点の情報ですか。

A. 2026年9月18日に、e-Gov法令検索で確認した内容です。
地方公務員災害補償法には2028年に施行される改正が控えていますが、この記事で引いた条文の中身は変わらないことを確かめています。

まとめ

  1. 仕事中・通勤中のけがに共済の保険証は使わない
  2. 共済が見るのは公務によらない病気とけがだけ
  3. 公務のけがは療養がまるごと出る。3割負担という考え方がない
  4. 決めるのは基金(地方)か実施機関(国)。職場ではない
  5. 無給になった日に平均給与額の60%
  6. 寄り道は原則アウト。例外は5つの用事だけ
  7. 無許可の副業先からの移動は通勤に入らない
  8. 請求は2年(障害・遺族は5年)。辞めたあとでもできる

✏️ 筆者から一言

この制度でいちばん怖いのは、知らないまま共済の保険証で通してしまうことです。
手厚いほうの制度に乗れないまま、3割を払い続けることになります。
元気なうちに覚えておきたいのは2つだけ。
仕事と通勤のけがは共済ではないこと。
そして、決めるのは職場ではないこと。
この2つを知っていれば、いざというときに最初の一手を間違えずに済みます。

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最終確認 2026年9月18日。
法令・制度の記述は、年に1度と制度改正のときに見直しています。

この記事を書いた人

公務員UPDATE 運営者。元公務員(警察官)。交番勤務・自動車警ら係・刑事・生活安全を経験し、現在は独立して事業を営んでいます。記事では、在職中の経験か退職後の経験かを必ず区別して書いています。

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